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牛好きな曽根雅弘のブログ。ほとんど牛のおはなしです。

妊娠率・発情発見率・受胎率

酪農における繁殖管理の目的とは何でしょう?

 

それはズバリ言ってしまうと妊娠牛を得ることです!

 

例えば→5頭よりも10頭とより多くの妊娠牛を得た方が良いですよね?

 

更に→同じ10頭でも10年かけて10頭の妊娠牛を得るのか、1年かけて10頭の妊娠牛を得るのかで意味合いが違ってきますよね?もちろん1年で10頭の方が牧場にとってより利益になります。

 

つまりより多くしかもより早く妊娠牛を得るそれが繁殖管理の目的!!

 

そして妊娠牛を得るスピードを数値化したものが妊娠率!!

 

↑というくだりはもう聞き飽きたという人も多いかもしれません・・・しかしながら受胎率や妊娠率の計算方法は数種類あり混乱している人が多いのも確かです(僕もそうでした)もう一回整理してみようというのが今回のテーマ

 

妊娠率・発情発見率・受胎率の復習

 

※妊娠率・発情発見率・受胎率には数種類の計算方法があります今回は、Dairy Comp305に用いられている計算方法について(おそらくU-motionやFarmnoteも同じ)

 

初めに受胎率ですが・・・受胎"率"と言ってしまっているので混乱してしまいますがここで用いる受胎率というのは実は割合(発生割合)のことです。割合とは何かというと→全体に対する部分を全体で割った値のことで↓

 

受胎率=妊娠した授精÷授精した総数(妊娠した授精+授精したけど空胎)

 

となります。図で説明すると↓↓

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次に妊娠率

 

受胎率が割合であることに対し妊娠率(発情発見率も)は"率(発生率)"です。

 

発生割合と発生率で何が違うかというと発生率では分母に時間の概念が含まれてきます。

 

つまり妊娠率には時間の概念が含まれる・・・時間の単位は、妊娠率の場合→1サイクル=21日で表します(VWPを過ぎてからサイクル数を数える)※VWP=自発的待期期間

 

時間の概念が含まれるとはどういう事かというと

 

例えば→下の図のA牧場とB牧場は、それぞれ3頭づつ牛がいます。幸運にも全て妊娠牛、つまりA牧場:3頭の妊娠牛でB牧場:3頭の妊娠牛になります。2つの牧場とも3頭づつ妊娠牛がいるので繁殖成績は同じとみるべきでしょうか?どうやら違いそうです。何が違うかというと妊娠牛を得るまでのサイクル数つまり時間が違うということになります。

 

A牧場:3頭の妊娠牛を得るまでのサイクル数→2+3+4=9

B牧場:3頭の妊娠牛を得るまでのサイクル数→5+6+7=18

 

A牧場の方が3頭の妊娠牛を得るまでのサイクル数が少ない→A牧場の方が妊娠牛を得るスピードが速い↓↓

 

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今度は、実際に妊娠率を計算してみます。

 

C牧場には、6頭の牛がいて3頭の妊娠牛A牛・B牛・D牛、2頭の空胎牛(授精中もしくはVWPを過ぎて授精できていない牛)C牛・E牛、1頭の死亡してしまったF牛がいます

 

実際にC牧場の現在の妊娠率を計算していきたいのですがまず妊娠率の計算式から↓

 

妊娠した頭数÷サイクル数=妊娠率

 

C牧場では現在、妊娠牛3頭で費やしたサイクル数は14です↓

 

3÷(1+2+2+4+2+3)×100=21% でC牧場の現時点での妊娠率は21%となります。

 

ポイントは、妊娠牛のサイクル数だけでなく空胎牛や死亡した牛のサイクル数も含まれているという事です。途中で死亡した牛のサイクル数は死亡した時点のサイクル数のまま動きませんが、空胎牛のサイクル数は妊娠するまでもしくは繁殖中止や死亡するまで増えていきます↓↓

 

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もっともっと具体的に見ていくためについにD牧場が登場します→D牧場には3頭牛がいて2頭妊娠しています。乳牛1は分娩後90日で受胎したので受胎に費やしたサイクル数は2サイクルとなる(VWP後からサイクル数をカウント、D牧場のVWPは50日とする)。乳牛2は分娩後110日で受胎なのでサイクル数は3。乳牛3は分娩後130日(4サイクル)で空胎なので現時点での妊娠率は22%↓↓

 

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時間が経過します(D牧場)

 

空胎牛である乳牛3の動向が妊娠率に影響してきますが、乳牛3は残念ながら分娩後150日でも空胎のままだったのでサイクル数は5になり牛群の妊娠率は20%に下がってしまいました。このように妊娠率は、空胎牛の現状も含めているので牛群の繁殖成績をリアルタイムで評価していると言えます↓↓

  

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さらに時間が経過します(D牧場)

 

ついに乳牛3が受胎しました!分娩後日数170日つまりサイクル数6費やして受胎、D牧場は3頭の妊娠牛を得るのに11サイクル費やしたので現在の妊娠率は27%になりました↓↓

 

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下の図は、実際の例です(Dairy Comp 305)↓↓デフォルトは一年間で評価した数値が出ますが、3ヶ月や2年間など期間を変更して評価することも可能です。ちなみに発情発見率は、授精した頭数÷サイクル数で計算できます。

 

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妊娠牛を得るスピードを数値化したものが妊娠率であるなら、視覚化したものが生存曲線であると言えます。下の図は、X牧場(妊娠率19%)とY牧場(妊娠率23%)の生存曲線を比較したものです。最初(分娩後)は、空胎牛100%でどちらの牧場もVWP50日なので分娩後50日からスタート(発情発見と授精)して受胎すると空胎牛が減っていきます。ですので空胎牛が減っていくスピードつまり妊娠牛を得るスピードが速いほどカーブが急になっていきます。どちらの妊娠率も優れていますが19%と23%でY牧場の妊娠率の方が良好なので生存曲線もY牧場の方が急なカーブになっています↓↓

 

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最後に、妊娠率の評価表を上げておきます。VWP後からサイクル数のカウントがスタートするのでVWPの設定(ソフト内の設定)は牧場ごとにするのが重要です。VWPによって妊娠率の評価は若干変わりますが、基本的には発情発見率60%以上妊娠率20%以上が最初の目標になるようです↓↓

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妊娠率の話を2011年に開催されたセミナー(富良野)で初めて聞いた時の感動は今でも覚えています。以降セミナーで習った考えを現場でいかしてきましたが、今回のブログはそのセミナーの内容の一部を自分なりにまとめたものです。

 

参考文献

dairyjapan.com

thms.jp